注目の“デジタルレイバー”はどんなところで活躍し始めているのか?
昨今、話題を集める「働き方改革」でみられるように、労働をめぐる問題は数多く、中でも少子高齢化、労働人口減少の進行を背景とした人材不足への対応は急務となっています。
どんなに優れた新規ビジネスのアイデアやプランが存在しても、それを実行するだけの人的リソースが不足していては、成功を引き寄せることはきわめて難しく、いまや人材の確保と生産性向上、効率化が最大の課題になっている企業も少なくありません。
そうした中で期待されているのがRPA(Robotic Process Automation)です。従来人間が担当してきたホワイトカラーのバックオフィス業務などにおける作業処理を中心として、ソフトウェアロボットに担当させ、自動化を図るもので、複数のアプリケーションやシステムにまたがる処理も迅速かつ正確に、ミスなくこなさせることができると考えられています。
業務自動化による飛躍的な効率アップ、コスト削減といった効果から、着実に導入事例も増えてきているRPAですが、現実的にみた時、どのような業務を担わせるのが適切なのでしょうか。とくに向くと考えられる業界、活用が難しい業界といった違いはあるでしょうか。今回はそうしたポイントについてみていくことで、RPAのより深い実務的理解を目指します。

現在の市場にみる活用状況
急速に関心を集め始めたRPAですが、市場としてはまだ若く成長途上にあります。導入支援サービスで先行するアビームコンサルティングは、一般社団法人日本RPA協会と共同で、RPAの導入実態調査を定期的に行っていますが、その最新調査結果によると、2017年前半は月あたり35件ペースで増加、2017年6月時点で210件、後半は月40件のペースに加速し、12月で計458件の導入実績が記録されています。
問い合わせは同年末で1,207件にのぼり、こうしたペースで導入が進めば、2018年末には1,000件を軽く上回る計算になり、国内全体では2,000~3,000件のRPA活用事例が誕生するだろうとも見込まれました。
民間調査会社のITRによる市場規模調査でも、RPAは2018年度に2017年度の2.2倍となる44億円規模へと成長する予測を出しており、今後も成長を継続、2021年度には82億円規模になるとしています。
業種・業界ごとの導入状況はどうなっているでしょうか。先のアビームコンサルティングらの調査における業種別分析結果では、メーカー、サービス業、商社・小売がトップ3となり、メーカーの内訳では上位から電子機器・精密機械の製造、素材、設備、医薬品・化粧品、食品などと続いていました。
サービス業では、エンターテインメントがトップでコンサルティング、BPO、人材サービスが続き、商社・小売では商社が最多、以下ファッション小売、日用品小売、百貨店・スーパーなどになっています。
歴史的には金融業界での取り組みが先行していましたが、昨今はメーカーでの導入が活発となり、業種は多岐に及んでいることがうかがわれるでしょう。当初はバックオフィス中心とされた業務内容も、現在は導入実績でバックオフィス業務とフロントオフィス業務が五分五分となっていることも報告されました。バックオフィス業務では経理や財務、総務関連が中心、フロントオフィス業務では営業がその大半を占めています。
業界・業種・規模を問わず幅広く活用可能!単純定型作業は最も得意!
こうしてみてみると、RPAの活用の幅はきわめて広く、際立って向く業界というものがないこと、あらゆる業界業種に適用でき、企業規模や職種も問わず導入を検討できると考えられます。
三井住友海上火災保険は、2017年夏、アクセンチュアと共同で全社的にRPA導入を行いました。アクセンチュアが開発したPC操作分析ツールを用いたところ、何百という全PC操作アクションの約2割はRPAによる自動化が可能であると見込まれたといい、幅広い領域でRPAと人間がともに働く環境を作り出しています。
大和ハウス工業も同時期にRPA導入を本格的に実施、内部統制業務の効率化や日常会計の生産性向上、情報収集のスピードアップとコスト削減などから、法令順守・コンプライアンス強化や経営管理の高度化にも活用しています。働き方改革の推進を図るため、勤怠情報の網羅的自動収集や分析にRPAを導入したほか、法令順守面で、グループの社会保険加入状況を可視化、分析する業務を自動化し加入率向上を目指すなど、多方面でうまくRPAの良さが確認されているそうです。
こうした先行する成功事例をみると、幅広い活用が可能なRPAですが、やはり得意とする分野、業務のタイプというものはあることもみえてきます。複数のアプリケーションにまたがったPC全体の操作をこなせるという水準では、すでに安定した成績が出ており、構造化されたデータの認識やルールエンジンに基づく判断での単純定型作業実施、大量なデータの迅速かつ正確な処理は、RPAが最も得意としており、これに基づいた業務の切り出しを行えば、非常に高い効果が期待できます。
PC上の定型業務から飛び出した、紙媒体や画像、音声などの認識処理も含むより高度なレベル、ルールの例外にも対応できる特化型のAIが中心技術となって動くような、部分的に人間レベルの判断と処理を実行する段階は、RPAの業務として実現可能ですが、まだ実用化には課題を抱えている面もあるでしょう。よって、これらは“向かない”とはいえませんが、今後の課題、将来的にRPAが対応していく可能性のある分野といえます。
このように、RPAの技術開発水準、安定的な実績が重ねられてきた普及水準という現状から、膨大で絶え間なく発生するデータの取得、入力、分析や検証、データの検索と一覧作成、問い合わせ内容の集計、各種データのフォーマットに応じた一括変換など、定型的で低い付加価値ながらビジネスに必要不可欠な作業に、とくに向いていると考えられます。
これらの業務を自動化して効率アップと高い正確性確保による品質の向上を図り、人間はより複雑な判断や意思決定が必要なコア業務、創造的業務に注力すると、ベストな結果が導かれるでしょう。
取り組みが先行していた金融業界は、そもそも定型業務の割合が高く、かつ空前の低金利で新たなコスト削減策を緊急的に求めていたという背景がありました。現在は広くあらゆる業種業態で人手不足、人件費の高騰が深刻化しています。最近になって導入が活発化していることが判明した、先述の調査におけるトップ3分野はもちろん、公共サービスや医療介護、コールセンターなどでも活用が期待されるでしょう。
“デジタルレイバー”として新たな労働力になるとみられるRPAは、人間の適材適所と同様、その特性に合った部分へ配置し、協働体制を構築していくことで最大の威力を発揮します。技術動向にも注視しながら、賢い活用を図っていきたいですね。
(画像は写真素材 足成より)